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東京高等裁判所 平成8年(ネ)1094号 判決 1997年8月06日

控訴人

東京都三多摩地域廃棄物広域処分組合

右代表者管理者

臼井千秋

控訴人

日の出町

右代表者町長

青木國太郎

右二名訴訟代理人弁護士

石井芳光

高谷進

酒井憲郎

三木祥史

松丸渉

戸井田哲夫

被控訴人

田島喜代恵

右訴訟代理人弁護士

梶山正三

釜井英法

樋渡俊一

佐竹俊之

平哲也

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  被控訴人の控訴人日の出町に対する別紙資料目録一記載の資料についての閲覧謄写請求権が存在しないことを確認する。

三  被控訴人の控訴人東京都三多摩地域廃棄物広域処分組合に対する別紙資料目録一②に掲げる「地下水排水工から集水される地下水の電気伝導度の常時観測データ(二四時間連続測定)」のうちの昭和五九年四月から平成八年三月までの分についての閲覧謄写請求権が存在しないことを確認する。

四  控訴人東京都三多摩地域廃棄物広域処分組合のその余の本訴請求について訴えを却下する。

五  控訴人東京都三多摩地域廃棄物広域処分組合は、被控訴人に対し、別紙資料目録一記載の資料(ただし、同資料目録一②に掲げる「地下水排水工から集水される地下水の電気伝導度の常時観測データ(二四時間連続測定)」を除き、同資料目録一①の資料については平成六年一一月以降、同②に掲げる「第三細目協定別表―1の項目についての水質検査データ」については同年一二月以降、同③の資料については同年一一月以降、同④及び同⑤の各資料については同年一二月以降の分)について、日の出町役場において閲覧させ、かつ、謄写させよ。

六  被控訴人の控訴人日の出町に対する反訴請求及び控訴人東京都三多摩地域廃棄物広域処分組合に対するその余の反訴請求をいずれも棄却する。

七  訴訟費用は、本訴、反訴及び第一、第二審を通じて、これを二分し、その一を控訴人東京都三多摩地域廃棄物広域処分組合の、その余を被控訴人の各負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決中控訴人らの敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の控訴人らに対する別紙資料目録一記載の資料についての閲覧謄写請求権は存在しないことを確認する。

3  訴訟費用は、本訴、反訴とも、第一、第二審を通じて、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  控訴人らの本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

第二  当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり訂正、付加又は削除するほかは、原判決の「第二事案の概要」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

一  原判決三枚目表五行目の「別紙資料目録一」を「本判決別紙資料目録一」と、同六行目の「、これに先立って」を削り、同七行目の「別紙」から同八行目の「という。)」までを「本件資料一」と、同九行目の「求めた。」を「求める(控訴人らは、原審においては、本件資料一の一部である本判決別紙資料目録二記載の資料(以下「本件資料二」という。)についてのみ閲覧謄写請求権の不存在確認を求めていたが、当審において、請求を拡張し、本件資料一全部について閲覧謄写請求権の不存在確認を求めている。)。」とそれぞれ改める。

二  原判決四枚目表五行目の「昭和五七年七月五日、」の次に「その区域内に本件処分場が設置される直接の地元である」を、同七行目から同八行目にかけての「同月一二日、」の次に「その区域内に本件処分場の覆土材置場及び搬入道路が立地する地元である」をそれぞれ加える。

三  原判決四枚目裏三行目の「一二二四名は」の次に「、本件処分場の底面に敷かれた遮水シートが破損して、汚水が漏出していることが判明したとして」を、同五行目の「開かれたが」の次に「、被控訴人らが本件資料一を含む資料の開示を求めたのに対し、控訴人らがこれを拒絶したため、調停が成立する見込みがないとして」をそれぞれ加え、同八行目の「東京地方裁判所」から同九行目の「による、」までを「訴外永戸千恵及び志茂鉄弘(以下「永戸ら」という。)は、平成六年一一月二二日、立川簡易裁判所に対し、第三協定及び第二二協定に基づいて」と、同一一行目の「全部認める旨の決定をしたが、」を「したが、右申立ては、その後、東京地方裁判所八王子支部(以下「八王子支部」という。)に裁量移送された。八王子支部は、同年一二月八日、永戸らの右申立てを認め、証拠保全期日を同月一六日午前一〇時三〇分と指定したが、右」とそれぞれ改める。

四  原判決五枚目表二行目の「同年」を「平成六年」と、同三行目の「本件資料一の一部」を「本件資料二」とそれぞれ改め、同六行目の「仮処分決定」の次に「(以下「本件仮処分決定」という。)」を加え、同九行目の「同月」を「平成七年三月」と、同行目の「本件仮処分」を「本件仮処分決定」とそれぞれ改める。

五  原判決五枚目裏一行目の「本件仮処分」を「本件仮処分決定」と、同一一行目の「同年」を「平成七年」とそれぞれ改める。

六  原判決六枚目表二行目の次に行を改めて

「1 原判決の本案前の判断に対する控訴人らの主張

控訴人らは、被控訴人に本件資料二の閲覧謄写請求権は存しないとして、八王子支部に対し、被控訴人を相手方として右資料閲覧謄写請求権不存在確認を求める本件訴え(本訴請求)を提起したが、八王子支部は、控訴人らの右訴えを確認の利益を欠く不適法な訴えであるとして却下する旨の原判決をした。

しかしながら、控訴人らは、本件間接強制決定による間接強制金の支払を行っているが(平成七年五月一三日から同年九月二六日まで一日当たり一五万円又は三〇万円、合計三二八五万円)、控訴人らが右支払済みの間接強制金の返還を求めるためには、被控訴人の資料閲覧謄写請求権の存否が確定される必要があり、右資料閲覧謄写請求権の存否が確定されることにより、控訴人らが支払った間接強制金の返還請求権の存否も確定することとなるのであるから、控訴人らは、本件訴え(本訴請求)について確認の利益を有するというべきである。

また、本件資料一の閲覧謄写請求権の存否について、第三協定及び第二二協定並びに第三細目協定及び第二二細目協定の解釈に関して、控訴人らと被控訴人との間に争いが存する以上、裁判所の公権的判断を必要とするのであり、法律上も明らかに訴えの利益が存在する。」を加え、同三行目の「1」を「2」と改める。

七  原判決六枚目裏四行目の「ものとされている。」を「ものとされており、」と、同五行目の「についても」を「については」とそれぞれ改める。

八  原判決七枚目表七行目の「合意であり」を「合意であるから」と改め、同八行目の「である。」の次に「そして、」を加え、同九行目の「時には、当然に」を「ときには、控訴人らに対し右資料の閲覧等を求める意思を明示したことになるから、資料の閲覧等について」と、同一〇行目の「があるから」を「をしたと認められ」とそれぞれ改める。

九  原判決七枚目裏一行目の「ここでいう「周辺住民」とは」を「また、第三協定及び第二二協定は、本件処分場の設置、運営等によって生ずる公害を防止するために、控訴人日の出町も当事者となって締結されたものであるが、これは、公害防止に関する事柄は町民全体の利害に関わる事柄であるとの考えに基づくものであるから、右各協定の各第一二条(4)に定める「周辺住民」とは」と改める。

一〇  原判決八枚目表六行目の「反論」を「主張及び反論」と改める。

一一  原判決九枚目裏二行目の「もできないから」を「ができないことは当然のことであるから」と、同一〇行目の「規定ぶり」を「規定の形式」とそれぞれ改める。

一二  原判決一〇枚目表四行目の「(には)」「」を「、誠意をもって対応し、」と、同五行目の「として」を「の具体的な内容として」とそれぞれ改める。

一三  原判決一一枚目表一行目の「右第一二条(4)を「第三協定の第一二条(4)」と、同一一行目の「本件」から同裏二行目の「存在しない。」までを「控訴人らは、被控訴人からの本件資料一の閲覧謄写請求についてはその必要性や相当性がないと判断して、これを拒絶したのであるから、被控訴人は、控訴人らに対して本件資料一の閲覧謄写を求めることはできない。」とそれぞれ改める。

一四  原判決一一枚目裏五行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(4) 控訴人らは、被控訴人の請求する本件資料一のうち別紙資料目録一②の地下水排水工から集水される地下水の電気伝導度の常時観測データ(二四時間連続測定)を除くその余の資料の原本(謄本)をすべて被控訴人に開示し、その閲覧謄写に供した。」

一五  原判決一三枚目表五行目の「(中略)」を「、」と改める。

一六  原判決一五枚目裏九行目の次に行を改めて

「(4) 原判決が控訴人らに対して控訴人組合が保管する本件資料一の開示を命じたにもかかわらず、控訴人らは、控訴人日の出町が所持してた資料の写しの一部についての閲覧謄写を認めたにすぎず、原判決が開示を命じた控訴人組合が保管する資料については、これを閲覧謄写に供していない。

右のとおり、控訴人日の出町が開示した資料は「原本」ではないし、控訴人組合が保管する資料についてはいまだ閲覧謄写に供していないのであるから、本件仮処分決定に基づいて被控訴人に対して本件資料一を閲覧謄写に供したとする控訴人らの主張は、理由がない。」

を加え、同一〇行目の「2」を「3」と改める。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  控訴人らの本訴請求の適否について

本件訴訟は、原審において、控訴人らが本件資料一の一部である本件資料二について被控訴人の閲覧謄写請求権の不存在確認を求める本訴請求を提起したところ、これに対し、被控訴人が本件資料二を含む本件資料一について閲覧謄写を求める反訴請求を提起し、さらに、当審において、控訴人らがその本訴請求を拡張して、本件資料一の全部について被控訴人の閲覧謄写請求権の不存在確認を求めているものである。したがって、本件訴訟においては、控訴人らの本件資料一について被控訴人の閲覧謄写請求権の不存在確認を求める本訴請求と被控訴人の本件資料一について閲覧謄写を求める反訴請求とが係属していることになるが、右両請求は訴訟物を同じくするものである。

ところで、原審は、このような本件訴訟について、控訴人らの本件資料二について被控訴人の閲覧謄写請求権の不存在確認を求める本訴請求は、被控訴人の本件資料一について閲覧謄写を求める反訴請求の提起によって不適法になったとして、控訴人らの本訴請求に係る訴えを却下した。しかしながら、債務不存在確認訴訟が係属している場合に、同一の訴訟物について反訴として給付訴訟を提起することは何ら二重起訴の禁止に触れるものではなく、同一訴訟物について反訴として給付訴訟が提起されたからといって、これによって当然に本訴請求が訴えの利益を欠くに至って不適法になると解することはできない。そして、本件のように、本訴請求の提起後本訴請求の訴訟物の範囲を超える請求を訴訟物とする反訴請求が提起され、その後、さらに、本訴請求が反訴請求と訴訟物を同じくする請求に拡張された場合も、右本訴請求の拡張は、いわば再反訴ともいうべきものであり、反訴の提起に準じて取り扱うのが相当であるから、右本訴請求の拡張が二重起訴の禁止に抵触するとか、訴えの利益を欠くとかいうことはできない。したがって、原判決中本件資料二について被控訴人の閲覧謄写請求権の不存在確認を求める控訴人らの本訴請求に係る訴えを不適法として却下した部分は、不当であり、取消しを免れないものといわざるを得ない。

ところで、民事訴訟法三八八条によれば、原判決中控訴人らの本訴請求に係る訴えを却下した部分は、これを取り消して原審に差し戻すべきところではあるが、右部分については、原審において、既に、反訴請求の当否を判断するに当たって、実体的審理を遂げており、更に審級の利益を保護するために、これを原審に差し戻す必要はないものと認められるから、これを原審に差し戻すことなく、実体の審理に入り、その請求の当否について判断することとする。

二  第二二協定の第一二条(4)に基づく閲覧謄写請求権について

1  第二二協定における被控訴人の資料閲覧謄写請求権の存否

乙第二号証の一によれば、第二二協定の第一二条は、「乙(控訴人組合)は、甲(控訴人日の出町)が指名する甲の職員、甲又は丙(第二二自治会)が委嘱する監視員並びに丙の住民(以下「監視員等」という。)が監視等の必要のため処分場内に立入る場合、誠意をもって対応し、次の事項を遵守しなければならない。ただし、監視員等の範囲は、甲又は丙があらかじめ乙に報告するものとする。」と定め、同条(1)は、「乙は、監視員等に対して、処分場の造成工事開始から、廃棄物の埋立開始、完了、閉鎖までの間随時、必要に応じて乙の所有する資料を閲覧させなければならない。又、監視員等から廃棄物その他の資料の採取または資料の提供の要求があったときは、それに応じなければならない。」と、また、同条(4)は、「乙は、処分場に関する資料の閲覧等について、周辺住民から要求があったときは、甲を通じて資料の閲覧又は提供を行わなければならない。」と定めている。そして、右第二二協定の第一二条(4)にいう「周辺住民」に少なくとも第二二自治会の区域内に居住する住民が含まれること及び被控訴人が第二二自治会の区域内に居住する住民であることについては当事者間に争いがないから、被控訴人は、同条(4)に基づき、本件処分場に関する資料の閲覧謄写請求権を有するものというべきである。

ところで、この点につき、控訴人は、第二二自治会の区域内に居住する住民であっても、第二二協定の第一二条(4)に基づき本件処分場に関する資料の閲覧謄写を請求することができるのは、同条本文に基づき監視員等が本件処分場に立ち入る場合に限られると主張する。確かに、同条本文と同条(4)とを合わせ読むと、文理上は、同条(4)は同条本文にいう監視員等が本件処分場に立ち入る場合を受けていて、周辺住民が同条(4)に基づいて本件処分場に関する資料の閲覧謄写を請求することができるのは監視員等が本件処分場に立ち入る場合に限られるかのようにも読めないではない。しかしながら、同条本文が監視員等が本件処分場に立ち入る場合に遵守しなければならない事項として掲げる同条(1)ないし(4)のうち、監視員等との関係に直接触れているのは前掲の同条(1)のみで、その余の公害防止等については控訴人日の出町及び第二二自治会から要求があったときは控訴人組合は誠意をもって協議に応じなければならないと定める同条(2)及び控訴人組合は本件処分場の監視に係る経費の全部又は一部を負担しなければならないと定める同条(3)は、必ずしも監視員等が本件処分場に立ち入る場合を前提としているものとは解し難く、本件で問題となっている同条(4)もまた、同様である。このようにみてくると、同条は、必ずしも十分に整備された規定とはいい難く、同条(1)ないし(4)のうちには、同条本文を前提とせず、それ自体同条本文とは切り離された独立の規定として定められたものも含まれているものと解さざるを得ない。そして、同条の規定、特に、同条本文及び同条(1)と同条(4)とを対比して考えると、同条(4)は、同条本文及び同条(1)が監視員等は必要に応じて本件処分場に立ち入り、控訴人組合の所有する本件処分場に関する資料を閲覧し、また、その提供等を求めることができると定めたのに対し、監視員等以外の周辺住民もまた、本件処分場に立ち入ることはできないが、控訴人組合に対して本件処分場に関する資料の閲覧謄写を求めることができることを定めたものと解するのが相当である。

控訴人らは、また、周辺住民から本件処分場に関する資料の閲覧謄写を求められた場合、控訴人らは地方自治法上の地方公共団体である協定当事者として、閲覧謄写の必要性、相当性等について独立の判断権を有しているというべきところ、控訴人らは、本件資料一については、開示の必要性も相当性も存しないと判断したものであると主張する。しかしながら、第二二協定は、控訴人ら及び第二二自治会の三者が対等の立場で締結したものであるから、控訴人らが地方自治法上の地方公共団体として優越的立場に立つものではないし、また、その第一二条(4)の規定をみてみても、本件処分場に関する資料の閲覧謄写について、控訴人らの判断権の優越を認めてはいないから、控訴人組合は、第二二自治会の周辺住民から本件処分場に関する資料の閲覧謄写を求められた場合、右要求が第二二協定の定める要件を充足する限り、第二二協定上当然に本件処分場に関するすべての資料について閲覧謄写の要求に応ずべき義務があると認めるのが相当である。

2  第二二協定上の資料閲覧謄写請求の相手方(義務者)

前示のとおり、第二二協定の第一二条(4)は、「乙(控訴人組合)は、処分場に関する資料の閲覧等について、周辺住民から要求があったときは、甲(控訴人日の出町)を通じて資料の閲覧又は提供を行わなければならない。」と定めているところ、右規定の文言に照らせば、第二二協定上本件処分場に関する資料を周辺住民に対して閲覧謄写させるべき義務を負っているのは、控訴人組合であり、控訴人日の出町は、控訴人組合が周辺住民からの要求により周辺住民に対して右資料を閲覧謄写させる場合に、これを取り次ぎ、仲介し、あるいは閲覧謄写の場所を提供するなどして周辺住民による右資料の閲覧謄写が円滑に行われるように協力すべき立場にあるにすぎず、自ら周辺住民に対して直接右資料を閲覧謄写させるべき義務を負うものでないことは明らかであるというべきである。ちなみに、第二二協定(乙第二号証の一)は、その冒頭に掲げられているように、控訴人組合が本件処分場の設置に当たり控訴人日の出町との間に締結した基本協定第四条(1)ないし(3)に基づき、その具体的な実施として、更に地元自治会である第二二自治会をも当事者に加えて、控訴人組合が本件処分場の建設及び一般廃棄物の埋立処分を行うのに伴う公害の防止を目的として締結されたものであり、その内容をみても、控訴人組合は、控訴人日の出町及び第二二自治会に対して右協定に定められた公害防止のための各種事項を遵守するとともに、各種点検・検査を実施し、その結果を控訴人日の出町及び第二二自治会に対して報告し、また、控訴人日の出町及び第二二自治会の委嘱する監視員等は、控訴人組合が公害防止のための各種事項を遵守しているかどうかを監視するため、本件処分場に立ち入ることができるとともに、必要に応じて、控訴人組合の所有する資料を閲覧し、又はその提供を受けることができるなどと定めているのであり、これらの点に照らしても、控訴人日の出町は、控訴人組合の側にあって、第二二自治会ないしその住民と対立する立場にあるのではなく、第二二自治会ないしその住民とともに、控訴人組合に対し、控訴人組合が本件処分場の建設及びこれに一般廃棄物の埋立処分を行うに当たり、右協定に定められた公害防止のための各種事項を遵守することを求め、これを監視すべき立場にあることは明らかである。第二二協定の第一二条(4)が前記のように控訴人組合が周辺住民からの要求によって本件処分場に関する資料を閲覧等させる場合には控訴人日の出町を通じて行うと定めているのも、控訴人日の出町が右のような立場にあることから、周辺住民による右資料の閲覧等が円滑に行われるよう控訴人日の出町が協力すべきことを定めたものであるというべきである。

3  被控訴人の本件資料一の閲覧謄写請求権の存否

(一)  前示のとおり、第二二協定の第一二条(1)は、控訴人組合は監視員等に対して控訴人組合の所有する資料を閲覧等させなければならないと定めているが、その資料の範囲については限定をしておらず、同条(4)も、周辺住民が閲覧謄写を請求することのできる「処分場に関する資料」の範囲について何らの限定を付していない。このような同条の協定に照らせば、第二二自治会の周辺住民が同条(4)に基づいて控訴人組合に対して閲覧謄写を請求することができるのは、本件処分場に関するすべての資料であると解するのが相当である。

(二)  この点につき、控訴人らは、周辺住民が第二二協定の第一二条(4)に基づいて閲覧謄写を請求することのできる資料は、控訴人組合が第二二協定及び第二二細目協定により第二二自治会に対して報告を義務づけられている資料に限られると主張する。

しかしながら、一般に、報告すべき義務があるということと閲覧謄写に応ずべき義務があるということとは、その意味合いが全く異なるものといわなければならない。前者は、請求を待たず資料の内容を開示すべき義務があるということであり、後者は、請求を待って資料の内容を開示すれば足りるということであるから、報告義務の対象となる資料と閲覧謄写請求の対象となる資料とは、その範囲を必ずしも同じくするものではない。そして、第二二協定及び第二二細目協定の規定を検討しても、第二二自治会の周辺住民が閲覧謄写を請求することのできる資料が控訴人組合が報告義務を課せられている資料の範囲に限られていると解すべき根拠は見当たらない。したがって、控訴人らの右主張は、採用することができない。

(三)  そうすると、被控訴人が閲覧謄写を請求している本件資料一は、その存否が争われている②のうちの「地下水排水工から集水される地下水の電気伝導度の常時観測データ(二四時間連続測定)」(以下「電気伝導度データ」という。)を除き、いずれも、第二二協定及び第二二細目協定において準用する第三細目協定によって点検・検査し、作成することが義務づけられている資料であると認められるから、第二二細目協定により報告義務の対象から除外されているかどうかに関わりなく、すべて、被控訴人による閲覧謄写請求の対象になることは明らかであるというべきである。

(四)  そこで、次に、本件資料一②のうちの電気伝導度データの存否について検討する。

本件証拠(甲第一ないし第八号証、第九ないし第一一号証の各一ないし三、第一七ないし第二一号証、第三二号証の一ないし六〇、第三三号証の一、二、第三四号証の一ないし一六八、第三五ないし第四四号証、第一〇二、第一〇五号証、第一〇六号証の一ないし四八、第一〇七ないし第一一三号証、乙第四ないし第七号証、第二九号証の一、二、第三〇、第三一号証、第三二号証の一、二、第三五、第四六、第六〇号証、証人跡部久男、同梶山正三、同布谷和代、同安藤哲士)によると、控訴人組合は、昭和五八年六月、本件処分場の浸出水処理が適切に行われ、下水道排除基準に従った排水が下水道に排水されているか否かを監視するための操作機器や測定器類を設置するために、浸出水処理施設建設工事を施工し、浸出水処理施設内の中央監視操作室に設置されている中央監視操作盤に流入量記録計、流入量積算計、原水流量指示調整計、放流流量記録計、放流流量積算計、滅菌槽PH記録計及び地下水伝導度計を設置し、昭和五九年三月、浸出水処理施設建設工事は竣工したこと、控訴人組合は、本件処分場の地下水集排水管に集水される地下水や浸出水等の水質検査や右記録計等による観測については、計量法に基づく資格を持った専門業者である株式会社環境管理センター(以下「環境管理センター」という。)に委託して行っていたこと、ところで、第二二協定の第八条一項(9)は、控訴人組合は地下水の水質検査を行うべきものと定め、第二二細目協定の第一条によって準用する第三細目協定の第一条九項(1)は、右地下水の水質検査につき、地下水排水工から集水される地下水の電気伝導度を自動測定機により常時測定を行い、異常値が出たときは、同細目協定の別表―1に掲げる検査項目について水質検査を行うとともに、その原因を究明すべきこと、また、右検査項目については三か月に一回定期検査を行うべきことを定めていること、そして、控訴人組合は、前記浸出水処理施設の中央監視操作盤に設置された地下水伝導度計に表示される数値の変化を目視することにより、地下水の電気伝導度の測定を行い、その数値の変化の概略を監視していたが、地下水の電気伝導度自体については、第三細目協定の別表―1に掲げる検査項目とされていないし、その測定結果を記録し、報告することも要求されていないこと、地下水の電気伝導度は、水中にあるイオン性物質の量を示す数値で、有害物質のようにその基準値やその濃度の変化を厳格に管理することが法令等により定められているものでもないこと等から、右電気伝導度の測定結果を二四時間連続記録することはしていなかったこと、しかし、控訴人組合は、本件処分場の維持管理をより厳格に行うとの見地から、環境管理センターに対し、毎月一回定期的に本件処分場の地下水排水工から集水される地下水を二か所の地下水集水管で直接採取して電気伝導度を測定し、その結果を記録し、報告することを求めていたこと、控訴人組合は、地下水伝導度計の測定結果については、右のとおり、格別の記録をしていなかったが、平成七年七月ころ、第三自治会の処分場問題対策委員会の委員から、控訴人組合が行っている電気伝導度の測定結果についても報告をすべきではないかとの意見が出されたことから、職員に対し、中央監視操作盤に設置された地下水伝導度計の表示の目視結果を一日一回記録することを指示したこと、控訴人組合は、平成八年三月、下水道法施行令等の改正により下水道排除基準が強化されたことに伴って、本件処分場の浸出水処理施設の改良工事を行うこととなり、右浸出水処理施設内の中央監視操作室に設置された中央監視操作盤についても操作機器や測定器類を新たな機種と交換し、地下水の電気伝導度についても記録紙を媒体とする常時観測データ(二四時間連続測定)の記録が可能な記録計を設置し、同年四月一日から右記録計の稼働を開始したことが認められる。

右事実によると、控訴人組合は、昭和五九年四月から、中央監視操作盤に設置された流入量記録計、流入量積算計、原水流量指示調整計、放流流量記録計、放流流量積算計、滅菌槽PH記録計及び地下水伝導度計によって、下水道排除基準に従った浸出水処理が行われているか否かを監視することとしたものであるが、中央監視操作盤に設置された右各種測定器の中で、流入量記録計、放流流量記録計及び滅菌槽PH記録計については、記録紙等を媒体とする常時観測データ(二四時間連続測定)の記録が可能であったが、地下水伝導度計は、測定器しか設置されておらず、更新された中央監視操作盤の操作機器や測定器類が稼働を始めた平成八年四月一日になってようやく記録紙の媒体による常時観測データ(二四時間連続測定)の記録が可能となったものと認められる。

この点、被控訴人は、控訴人らは、東京都公害審査会等において、電気伝導度データが存在するという発言を繰り返しており、また、被控訴人らが平成五年一〇月二四日本件処分場の浸出水処理施設を視察した際にも、中央監視操作室の中央監視操作盤に設置されていた地下水伝導度計は、現在のそれと同様「〇から一〇〇〇〇」の数値の表示が可能であったことを確認している等の事実に照らすと、電気伝導度データは存在すると主張する。

しかしながら、控訴人組合は、前記のとおり、中央監視操作室の中央監視操作盤に設置された地下水伝導度計に表示される数値を目視することによって、電気伝導度の変化を監視していたほか、環境管理センターに対して毎月一回定期的に地下水を直接採取して電気伝導度を測定し、その結果を記録し、報告することを求めていたのであるが、中央監視操作盤の地下水伝導度計の測定結果が記録紙により記録されていたとすれば、環境管理センターに対して地下水を直接採取してその電気伝導度を測定させる必要は極めて希薄であって、この点からも、被控訴人主張の電気伝導度データの存在の可能性は疑わしいものといわざるを得ない。そして、控訴人らが東京都公害審査会等において電気伝導度データが存するという発言をしたとの点は、右のとおり、環境管理センターによる毎月一回の測定結果の記録も存することに照らすと、その発言の正確性に問題はあるとしても、控訴人らから右のような発言があったからといって、それをもって、電気伝導度データが存在し、控訴人組合がこれを保管していると認めることはできないといわざるを得ない。また、被控訴人らの本件処分場の視察は、東京都公害審査会の調停において、調停委員が本件処理場における汚水処理の状況を理解する目的で行われたもので、本件処分場の埋立地、調整池、汚水処理場、中央監視操作室等を順次回り、控訴人組合の職員から右各施設についての説明を受け、質疑をする形で行われたのであるが(乙第四ないし第七号証、証人梶山、同布谷、同安藤)、右視察は、中央監視操作室の計測器等を直接の対象として行われたものでなく、被控訴人らは控訴人組合の職員から地下水伝導度計等の計器類についての詳細な説明を受けることができなかったというのであり、また、控訴人組合は、前記のとおり、平成八年三月に中央監視操作盤の機器の更新を行うまでは、地下水伝導度計には常時観測データ(二四時間連続測定)を記録するための記録計は設置していなかったのであるから、被控訴人らが右視察の際中央監視操作室で「〇から二〇〇〇」の目盛りが設置された計測器とそれに隣接して二四時間打点式の記録計を確認したとしても、それが電気伝導度の常時観測データ(二四時間連続測定)を記録するための記録計であったと認めることは困難であり、他に被控訴人の右主張を認めるべき具体的な証拠も存しない。

右のとおりであるから、控訴人組合が平成八年三月に中央監視操作盤に設置された操作機器及び測定器類を更新し、地下水の電気伝導度についても常時観測データ(二四時間連続測定)を記録紙を媒体とする記録計により記録することができるようになり、同年四月一日から右記録計の稼働を開始するまでは、電気伝導度データは存在しなかったものといわざるを得ない。したがって、被控訴人は、電気伝導度データについては、平成八年四月一日以降の分についてはその閲覧謄写を請求することができるが、それより前の昭和五九年四月から平成八年三月までの分についてはその閲覧謄写を請求することはできないというべきである。

4  控訴人組合による本件資料一の閲覧謄写の機会提供について

(一)  控訴人らは、被控訴人が閲覧謄写を求める本件資料一については、既にすべて開示し、閲覧謄写に供したと主張する。

甲第二二、第二三号証、第二四号証の一ないし二九三、第一一四号証、乙第三六号証の一六及び弁論の全趣旨によれば、控訴人組合は、本件訴訟係属後、本件仮処分決定に従って本件仮処分決定が控訴人らに対して被控訴人に閲覧謄写させるべきことを命じている本件資料一①ないし⑤(本件資料二①ないし⑤に同じ。ただし、右②のうち電気伝導度データを除く。)について閲覧謄写に応ずることとし、平成七年九月二七日及び同月二九日の両日にわたって、日の出町自然休養村管理センターにおいて、被控訴人に対し、本件資料一①の点検を始めた昭和五九年四月から平成六年一〇月までの分、本件資料一②のうちの「第三細目協定別表―1の項目についての水質検査データ」の測定を始めた昭和五九年四月から平成六年一一月までの分、本件資料一③の測定を始めた昭和五九年四月から平成六年一〇月までの分、本件資料一④の測定を始めた昭和五九年四月から平成六年一一月までの分及び本件資料一⑤の測定を始めた昭和五九年一〇月から平成六年一一月までの分(以下、右閲覧謄写に供した資料を一括して「本件資料一既閲覧部分」という。)について、控訴人日の出町が保管する資料を開示して、閲覧謄写に供したこと、控訴人らが右閲覧謄写に供した各資料は、控訴人組合から委託を受けてその検査又は測定に当たった環境管理センターにおいてその作成に当たってその当初から各三部ずつ作成して控訴人組合に提出し、控訴人組合は、そのうち一部を原本として保管し、残余の二部のうち一部を控訴人日の出町に、他の一部を第三自治会にそれぞれ送付していたことを認めることができる。しかしながら、控訴人組合が本件資料一既閲覧部分を除くその余の本件資料一を被控訴人の閲覧謄写に供したことは、これを認めるに足りる証拠はない。

(二)  この点につき、被控訴人は、控訴人らが開示した資料は原本ではないし、控訴人らは控訴人組合が保管する資料についてはいまだ閲覧謄写に供していないから、控訴人らは被控訴人に対して本件資料一をすべて開示したとはいえないと主張する。

控訴人組合が第二二協定の第一二条(4)に基づいて周辺住民の閲覧謄写に供すべき本件処分場に関する資料が右資料の原本を意味することは、当然のことといわなければならない。しかしながら、前記認定によれば、控訴人組合が被控訴人の閲覧謄写に供した本件資料一既閲覧部分は、環境管理センターがその作成に当たって当初から各三部ずつ作成して控訴人組合に提出したもののうち控訴人組合から控訴人日の出町に送付された一部であり、控訴人組合においても右三部のうちの一部が保管されているというのであるから、控訴人組合で保管しているものは、これを原本と呼ぶかどうかはともかく、その体裁・内容は控訴人日の出町で保管しているそれと全く同一のものであるということができる。そうすると、このようにその作成の当初から体裁・内容を全く同じくして作成された資料である控訴人日の出町の保管する資料を開示してされた本件資料一既閲覧部分の開示は、控訴人組合が保管する資料を開示してしたのと同様に評価することができるものと解するのが相当である。

三  結論

1  控訴人らの本訴請求について

(一)  控訴人日の出町の本訴請求について

控訴人日の出町は、前記のとおり、第二二協定の第一二条(4)に基づく本件処分場に関する資料の閲覧謄写請求の義務者ではないから、被控訴人は、控訴人日の出町に対しては、そもそも本件資料一について閲覧謄写請求権を有しないものといわざるを得ない。したがって、控訴人日の出町の本訴請求は、この点において、既に理由がある。

(二)  控訴人組合の本訴請求について

(1) 電気伝導度データの閲覧謄写請求権の不存在確認について

本件資料一②のうちの電気伝導度データは、前記認定のとおり、昭和五九年四月から平成八年三月までは作成されておらず、同年四月一日から作成されるようになったのであるから、被控訴人は、控訴人組合に対し、右同日以降の分の電気伝導度データについては閲覧謄写請求権を有するが、それより前の分については、閲覧謄写請求権を有しないものといわなければならない。したがって、控訴人組合の本訴請求中被控訴人が電気伝導度データの閲覧謄写請求権を有しないことの確認を求める部分は、昭和五九年四月から平成八年三月までの分の閲覧謄写請求権の不存在確認を求める限度で理由があるから、認容し、その余は、理由がないから、棄却すべきである。

(2) 電気伝導度データを除くその余の本件資料一の閲覧謄写請求権の不存在確認について

本件資料一のうちの本件資料一既閲覧部分については、既に控訴人組合により被控訴人に対して閲覧謄写に供されたと認められることは、前示のとおりである。

しかしながら、第二二協定の第一二条(4)に基づいて周辺住民が有する本件処分場に関する資料の閲覧謄写請求権は、周辺住民にこのような権利を認めた右協定の趣旨からして、一回的な、一回行使すれば最早重ねて行使することが許されなくなるような権利ではなく、必要に応じて反復繰り返して行使することのできる権利であると解されるから、一たび閲覧謄写の機会を与えたからといって、右の権利そのものが消滅することはないものというべきである。したがって、控訴人組合が右のように本件資料一既閲覧部分については既にこれを被控訴人の閲覧謄写に供しているからといって、被控訴人が最早本件資料一既閲覧部分について閲覧謄写請求権を喪失したものということはできない。

そうすると、控訴人組合の本訴請求中電気伝導度データを除くその余の本件資料一について被控訴人の閲覧謄写請求権の不存在確認を求める部分は、すべて理由がなく、棄却すべきことになる。

(3) 右(1)及び(2)にみてきたところによれば、控訴人組合の本訴請求中昭和五九年四月から平成八年三月までの分の電気伝導度データを除くその余の本件資料一について被控訴人の閲覧謄写請求権の不存在確認を求める部分は、請求を棄却すべきことになるが、原判決は、右部分のうちの本件資料一①から⑤(本件資料二)について被控訴人の閲覧謄写請求権の不存在確認を求めた部分について、これを不適法として却下する判決をしており、原判決が右不適法却下の訴訟判決をした部分の請求について当審がこれを棄却する本案判決をすることは不利益変更に当たり、民事訴訟法三八五条により許されないから、結局、当審としては、原判決が右不適法却下の判決をした部分の請求については、請求棄却の判決をすることができず、これを不適法として却下した原判決を維持するほかはないことになる。

2  被控訴人の反訴請求について

(一)  控訴人日の出町に対する反訴請求について

控訴人日の出町は第二二協定の第一二条(4)に基づく周辺住民に対する本件処分場に関する資料の閲覧謄写の義務者ではなく、被控訴人は控訴人日の出町に対してはそもそも本件資料一について閲覧謄写請求権を有しないことは、前示のとおりである。したがって、被控訴人の反訴請求中控訴人日の出町に対して本件資料一の閲覧謄写を求める部分は、理由がなく、棄却を免れない。

(二)  控訴人組合に対する反訴請求について

(1) 電気伝導度データの閲覧謄写請求について

本件資料一②のうちの電気伝導度データについては、昭和五九年四月から平成八年三月までの分は作成されておらず、存在しないことは、前記認定のとおりであるから、被控訴人の反訴請求中右期間の電気伝導度データについて閲覧謄写を求める部分は、理由がないものといわなければならない。したがって、原判決中昭和五九年四月から平成七年六月までの電気伝導度データの閲覧謄写を求める被控訴人の反訴請求を認容した部分は不当であるから、これを取り消し、右部分についての反訴請求を棄却すべきである。なお、平成八年四月一日以降は電気伝導度データが作成されていることは前示のとおりであるから、これについては被控訴人は閲覧謄写請求権を有することになるけれども、被控訴人の反訴請求中平成七年七月以降の分の電気伝導度データの閲覧謄写を求める部分は、原判決において理由がないものとして請求が棄却されており、この部分については、被控訴人から控訴も附帯控訴もないから、被控訴人の反訴請求中平成八年四月一日以降の分の電気伝導度データの閲覧謄写を求める部分について原判決を取り消してその請求を認容することは許されないものといわなければならない。

(2) 電気伝導度データを除くその余の本件資料一の閲覧謄写請求について

被控訴人が第二二協定の第一二条(4)に基づき電気伝導度データを除くその余の本件資料一について閲覧謄写請求権を有すること、しかも、同条(4)に基づく本件処分場に関する資料の閲覧謄写請求権は一回的なものではなく、反復繰り返して行使することのできる権利であることは、前示のとおりである。したがって、被控訴人は、一たび控訴人組合から右資料について閲覧謄写の機会を与えられても、権利の濫用にわたるなどその権利の行使が許されないと認められる特段の事情のない限り、反復繰り返して同一の資料について閲覧謄写を請求することができることはいうまでもない。しかしながら、このように反復繰り返して行使することのできる基本的な権利としての閲覧謄写請求権とその具体的な権利行使としての個々の閲覧謄写請求とは、区別して考えなければならない。すなわち、前者の基本的な権利としての閲覧謄写請求権は、前述したように、一たび閲覧謄写の機会を与えられたからといって消滅することはないのに対して、後者の具体的な権利行使としての個々の閲覧謄写請求は、控訴人組合がこれに応じて閲覧謄写の機会を与えれば、それによって右閲覧謄写請求に応ずべき控訴人組合の義務は履行され、消滅するものと解するのが相当だからである。そして、被控訴人の本件反訴請求における本件資料一の閲覧謄写請求の趣旨は、被控訴人が他の者と共同して平成五年七月に東京都公害審査会に申し立てた本件調停において本件資料一を含む資料の開示を求めたのに対して控訴人らがこれを拒否したことに端を発して、被控訴人が本件資料一の一部である本件資料二についてその閲覧謄写を求めて本件仮処分を申し立てるなどの経緯を経て、本件訴訟に発展したという本件訴訟係属に至る経緯及び弁論の全趣旨にかんがみれば、基本となる閲覧謄写請求権の具体的な行使としての右本件資料一の閲覧謄写請求に対して控訴人組合がいまだこれに応じていないとして、これに応じて閲覧謄写の機会を提供することを求めるにあるものと解される。そうすると、被控訴人の反訴請求における本件資料一の閲覧謄写請求は、このような具体的な権利行使として被控訴人の閲覧謄写請求に対して控訴人組合がこれに応じないとしてその履行を求めることにあるから、被控訴人の右閲覧謄写請求に対して控訴人組合が既にこれに応じたものと認められるときは、被控訴人の右具体的な閲覧謄写請求に応ずべき控訴人組合の義務は既に履行され、消滅したことになり、被控訴人から再度閲覧謄写請求のない限り、控訴人組合は、これに応ずべき義務はないことになるところ、控訴人組合が本件訴訟係属後の平成七年九月二七日及び同月二九日の両日にわたって被控訴人の反訴請求に係る本件資料一のうちの本件資料一既閲覧部分について控訴人日の出町の保管する資料を開示して被控訴人の閲覧謄写に供したことは前示のとおりであるから、控訴人組合は、被控訴人の閲覧謄写に供した本件資料一既閲覧部分については、既にその義務を履行したものというべきである。したがって、被控訴人の反訴請求中、本件資料一既閲覧部分について閲覧謄写を求める部分は、理由がなく、棄却を免れないが、電気伝導度データ及び本件資料一既閲覧部分を除くその余の本件資料一について閲覧謄写を求める部分は、いまだ控訴人組合がこれを被控訴人の閲覧謄写に供したことも認められないから、理由があり、認容すべきである。

3  よって、当裁判所の右判断と異なる原判決は一部不当であるから、これを変更することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石井健吾 裁判官星野雅紀 裁判官関野杜滋子は、転補につき、署名押印ができない。 裁判長裁判官石井健吾)

別紙資料目録一

原告らと第三自治会との三者間で締結された第三協定及び右協定の細目事項を定める第三細目協定、並びに原告らと第二二自治会との三者間で締結された第二二協定及び右協定の細目事項を定める第二二細目協定に規定されている各記録、データ等の資料中、左記の①ないし⑭に該当するもので、昭和五九年四月から閲覧、謄写時までの記録、データ等。

① しゃ水工の点検補修記録(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(5)、第三細目協定第一条五項(2)、第二二細目協定第一条)

② 地下水排水工から集水される地下水の電気伝導度の常時観測データ(二四時間連続測定)及び第三細目協定別表―1の項目についての水質検査データ(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(9)、第三細目協定第一条九項(1)、第二二細目協定第一条)

③ 貯留ダム左岸部に設置されたモニタリング井戸の第三細目協定別表―2の項目についての水質検査データ(第三協定及び協定及び第二二協定の各第八条一項(9)、第三細目協定第一条九項(2)、第二二細目協定第一条)

④ 防災調整池の第三細目協定別表―1の項目についての水質検査データ(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(10)、第三細目協定第一条一〇項(1)、第二二細目協定第一条)

⑤ 防災調整池放流口下の底質の分析データ(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(15)、第三細目協定第一条一五項、第二二細目協定第一条)

⑥ 浸出液処理施設の機能点検記録(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(7)、第三細目協定第一条七項、第二二細目協定第一条)

⑦ 浸出液原水の水質検査記録(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(8)、第三細目協定第一条八項、第二二細目協定第一条)

⑧ 一次処理水の圧送前の水質検査記録及びCODについての自動測定機による常時観測データ(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(10)、第三細目協定第一条一〇項(2)、第二二細目協定第一条)

⑨ 一次処理槽の凝集沈殿汚泥分析記録(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(11)、第三細目協定第一条一一項、第二二細目協定第一条)

⑩ 気象観測(風向、風速、降水量、蒸発量、温湿度)記録(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(12)、第三細目協定第一条一二項、第二二細目協定第一条)

⑪ 埋立地から発生するガスの検査記録(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(13)、第三細目協定第一条一三項、第二二細目協定第一条)

⑫ 悪臭調査記録(第三細目協定第一条一六項、第二二細目協定第一条)

⑬ 搬入される廃棄物の目視監視報告及び抜き取り検査結果報告(第三協定及び第二二協定の各第三条、第三細目協定第三条一項(1)、第二二細目協定第一条)

⑭ 原告組合が原告日の出町に対して定期的に行う、搬入される廃棄物の収集・中間処理形態と質、抜き取り検査結果等についての搬入団体ごとの報告(第三協定及び第二二協定の各第三条、第三細目協定第三条一項(3)、第二二細目協定第一条)

別紙資料目録二

原告らと第三自治会との三者間で締結された第三協定及び右協定の細目事項を定める第三細目協定、並びに原告らと第二二自治会との三者間で締結された第二二協定及び右協定の細目事項を定める第二二細目協定に規定されている各記録、データ等の資料中、左記の①ないし⑤に該当するもので、昭和五九年四月から平成六年一一月までの記録、データ等。

① しゃ水工の点検補修記録(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(5)、第三細目協定第一条五項(2)、第二二細目協定第一条)

② 地下水排水工から集水される地下水の電気伝導度の常時観測データ(二四時間連続測定)及び第三細目協定別表―1の項目についての水質検査データ(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(9)、第三細目協定第一条九項(1)、第二二細目協定第一条)

③ 貯留ダム左岸部に設置されたモニタリング井戸の第三細目協定別表―2の項目についての水質検査データ(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(9)、第三細目協定第一条九項(2)、第二二細目協定第一条)

④ 防災調整池の第三細目協定別表―1の項目についての水質検査データ(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(10)、第三細目協定第一条一〇項(1)、第二二細目協定第一条)

⑤ 防災調整池放流口下の底質の分析データ(第三協定及び第二二協定の各第八条一項(15)、第三細目協定第一条一五項、第二二細目協定第一条)

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